ファクタリングの市場規模の展望。日本と各国の推移、動向は?

ファクタリングの市場規模の展望。日本と各国の推移、動向は?

日本の場合、従来に比べ認知度はあがってきたものの、ファクタリングはまだまだメジャーな資金調達の手段とはいえません。しかし、世界に目を向けてみれば、企業の資金調達の手段として市民権を得ている国はたくさんあります。

日本も今後、ファクタリングが資金調達の手段として、市民権を得る日が来るかもしれません。そこで本記事では、ファクタリングの市場規模の展望について解説します。

日本と世界各国のファクタリングの市場規模

最初に、ファクタリングの市場規模について、日本と世界各国のデータを見比べてみましょう。

日本国内のファクタリング市場規模の推移

オランダを本拠地とするファクタリングの非営利団体、FCIの調査によれば、2015年から2021年日本におけるファクタリングの取引額の推移は以下のようになっていました。

取引高(100万ユーロ)
2015 54,184
2016 49,466
2017 37,284
2018 49,348
2019 49,446
2020 51,225
2021 58,666

出典:FCI「Total Factoring Volume by Country in the Last 7 Years (in million of Euros)」

2015年から2017年にかけて減少していたものの、その後は増加に転じています。

海外のファクタリング市場規模の推移

一方、海外では国・地域にもよりますが、日本に比べてはるかにファクタリングが利用されている国もあるのが実情です。特にファクタリングが広く用いられている以下の国のデータを紹介しましょう。

  • フランス
  • ドイツ
  • イタリア
  • オランダ
  • スペイン
  • イギリス
  • ベルギー

先ほどと同じく、FCIが公表した同時期のデータを用いています。

年/国別取引高(100万ユーロ) フランス ドイツ イタリア オランダ スペイン イギリス ベルギー
2015 248,193 209,001 190,488 65,698 115,220 376,571 61,169
2016 268,160 216,878 208,642 82,848 130,656 325,878 62,846
2017 290,803 232,431 228,421 89,713 146,292 324,260 69,641
2018 320,409 244,300 247,430 98,368 166,391 320,193 76,340
2019 349,714 275,491 263,364 112,148 185,559 328,966 84,819
2020 323,567 275,000 234,842 113,758 182,264 272,677 81,716
2021 364,900 309,400 258,350 131,940 199,364 328,429 99,368

出典:FCI「Total Factoring Volume by Country in the Last 7 Years (in million of Euros)」

ここで紹介した国に限って言えば、2021年時点でのファクタリングの取引高は日本をはるかに上回っています。最も小規模なベルギーであっても、日本の1.5倍強に達しました。ちなみに、ベルギーの人口は約1150万人(2020年1月時点)と日本の10分の1程度です。

これらのデータを見るだけでも、日本に比べはるかにファクタリングが広く用いられている国があることがわかるでしょう。

ファクタリングの市場規模が徐々に拡大している背景

日本のファクタリング市場は、ヨーロッパなどすでに盛んに利用されている国と比べると、まだまだ規模が小さいです。

しかし、さまざまな要素が後押しとなり徐々に規模が拡大しつつあります。後押しとなる要素として、以下の3つを解説します。

  • 2026年に約束手形が廃止される
  • ファクタリングに関する規制緩和や法改正が行われた
  • 地方自治体が安心して利用できる体制づくりに取り組んでいる

2026年に約束手形が廃止される

一点目は、約束手形の廃止です。従来、日本の商取引の現場では、決済手段の1つとして、約束手形が広く用いられてきました。

約束手形は、将来の一定期日において代金を支払うことを約束した有価証券です。約束手形を定められた支払期日以降に銀行に持って行けば現金化できます。

加えて、定められた支払期日より前に銀行や手形割引業者に買い取ってもらい、現金化すること(手形割引)も可能です。そのため、本来の支払期日が大分先であっても、資金繰りに不安がある場合は、手形割引によりまとまった現金を確保することができました。

しかし、現金決済の増加や紛失リスクなどを理由に、約束手形はだんだん利用されなくなってきたのも実情です。約束手形の交換高は、ピーク時の1990年時点で4,797兆2,906億円に達したものの、2020年時点では134兆2,534億円までに落ち込みました。

このような背景を受け、経済産業省は2026年で約束手形を廃止することを公表しています。

参照:経済産業省「「取引適正化に向けた5つの取組」を公表しました。」

ファクタリングに関する規制緩和や法改正が行われた

ファクタリングに関する規制緩和や法改正が行われたのも、今後のファクタリングの普及を後押しする一因になるでしょう。

債権譲渡禁止特約の扱いの変更

日本でファクタリングがなかなか普及しなかった要因の1つに、法律の壁がありました。その代表例が債権譲渡禁止特約です。文字通り「債権を第三者に譲渡してはいけない」という特約を指します。

売掛債権が発生したとしても、債権譲渡禁止特約が付帯されていた場合は、譲渡そのものが無効になってしまうおそれがあります。そのため、ファクタリング会社でも債権譲渡禁止特約が付帯されている売掛債権は買取を断っていました。

しかし、2020年4月1日から改正民法が施行され、債権の譲渡が禁止・制限されていたとしても、債権譲渡は成立するようになりました。参考までに、民法466条(債権の譲渡性)の新旧比較表を紹介します。

改正前 改正後
1.債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2.前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
1.債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2.当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3.前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4.前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

出典:民法

条文のままだと難しいので内容をまとめると、以下の通りです。

  • 債権の譲渡が禁止・制限されていたとしても、債権譲渡は成立する
  • 債権が無断で譲渡された場合、債務者は譲受人への支払いを拒否し、譲渡人へ履行することができる
  • 債務者が支払を行わない場合、まず譲渡人から支払いの要求を行い、応じない場合は譲受人から直接支払いを要求できる

これらの改正により、特約の有無にかかわらず、債権譲渡は可能となります。

そのため、ファクタリング会社側は債権譲渡特約が付帯している債権でも買い取ることが可能となりました。ファクタリングを利用する側からすれば、債権譲渡特約が付帯していても使えるようになったので、より幅広い資金調達が可能となります。

国による売掛債権の利用の促進

国も、中小企業の資金調達として、売掛債権の利用を促進しています。代表的なものが売掛債権担保融資保証制度です。これは、売掛債権を担保にしてお金を借りる場合に、信用保証協会が保証を行う制度を指します。

売掛債権担保融資保証制度の創設に伴い、経済産業省および中小企業庁は、債権譲渡禁止特約の解除を呼び掛けています。すでに触れた通り、債権譲渡禁止特約が付帯していたとしてもファクタリングは使えるようになりました。

それでも、トラブル防止の観点から、債権譲渡禁止特約が解除されていない状態での買取に消極的なファクタリング会社もあります。しかし、取引先が積極的に債権譲渡禁止特約の解除に応じるようになれば、状況も変わっていくでしょう。

参照:中小企業庁「売掛債権の利用促進について」

地方自治体も安心して利用できる体制づくりに取り組んでいる

地方自治体も、中小企業支援策の一環として、ファクタリングを安心して利用できる環境整備の支援に乗り出しています。

たとえば、東京都では、一般社団法人オンライン型ファクタリング協会を補助事業者として決定し、同団体が行う自主規制等の取り組みを支援する事業を開始することになりました。

参照:東京都産業労働局「ファクタリング」

2022年現在、ファクタリングに関しては銀行(銀行法)や消費者金融(貸金業法)のように、特別法が存在しません。あくまで一般法である民法や刑法の枠内で規制を行っているため、運営状況に問題がある業者が混じっているのも実情です。

しかし、東京都のように、地方自治体がファクタリングを安心して利用できる枠組み作りを支援していく動きはこれからも発生するでしょう。

ファクタリングの基礎をおさらいしておこう

今後、ファクタリングは中小企業における資金調達手段の一環として、これまで以上に広く使われていく可能性を秘めています。今はまだ使ったことがなくても、将来的な使用を検討している人だっているはずです。

そこで、ファクタリングに関する基本中の基本となる知識を、ここでいくつか紹介しましょう。

2社間ファクタリングと3社間ファクタリング

中小企業において資金調達のために主に使われるファクタリングは、正確には「買取ファクタリング」です。名前の通り、売掛債権を専門業者(ファクタリング会社、ファクター)に売却し、早期の資金化を目指す手法を指します。

なお、買取ファクタリングは契約に関与する当事者の数によって2社間ファクタリングと3社間ファクタリングに分類されます。わかりやすくするために、違いを表にまとめました。

項目 3社間ファクタリング 2社間ファクタリング
ファクタリング会社への支払元 取引先 利用者
取引先への通知 あり なし
取引のスピード 時間がかかる(1~2週間程度) 早い(最短即日)
手数料 比較的安め(1~10%) 比較的高め(10~20%)

重視されるのは「取引先の支払能力」

ファクタリングを利用する際は、かならず審査が必要になります。しかし、融資を受ける場合と違い、取引先の支払能力も重視される点に注意しましょう。

仮に、自社の経営成績が芳しくなく、銀行やノンバンクからの融資を受けられない場合でも、ファクタリングが利用できる可能性はあります。取引先から売掛金を回収できるなら、ファクタリング会社が将来的に返済を受けることは可能だからです。

ただし、取引先から直接ファクタリング会社に支払いを行う分、3社間ファクタリングのほうが審査に通過しやすくなっています。自社の支払能力に不安がある場合、2社間ファクタリングの審査に通過できない可能性もある点に気を付けてください。

便利だからこそ業者選びが重要

ファクタリングは日本ではまだまだメジャーな資金調達手段とは言えません。しかし、ヨーロッパなど一部の国・地域では広く用いられています。日本でも、法律の改正など後押しする要素が出てきているため、これから一気に広がってもおかしくありません。

しかし、現状では特別法が存在しないため、運営体制に問題がある悪質な業者も混じっているのが実情です。中には、利用者の知識不足に漬け込み、ファクタリングを装って貸付を行う違法業者も存在します。トラブルに巻き込まれないよう、業者選びは慎重に行いましょう。

また、ファクタリングの利用にあたっては手数料がかかります。手数料の負担があまりに大きいと、調達できる金額が減ってしまうので注意してください。根拠もなく相場からあまりに外れた手数料を提示された場合は、きっぱり断りましょう。