でんさい(電子記録債権)とファクタリングには、債権を譲渡することによって、資金調達ができるという共通点があります。
そのため、両者には共通点以外に違いもあれば、メリット・デメリットもあります。
そこで、この記事ではでんさいとファクタリングについて違いや共通点を解説するとともに、メリット・デメリットを解説します。
でんさいとファクタリング
でんさいとファクタリングは、どのようなものなのでしょうか。
両方を知っている人は、意外と少ないのかもしれません。
ここでは、でんさいとファクタリングとは何かについてそれぞれ解説します。
でんさいとは?
「でんさい」とは「電子記録債権」の略で、手形や売掛債権などに代わる決済手段として電子化された債権のことです。
でんさいが生まれたのは、手形や売掛債権などのデメリットを解消し、簡単に債権譲渡による資金調達などができるようにするためです。
でんさいでは電子化した債権を送受信することによって債権譲渡が行われるため、ファクタリングのように資金調達することができます。
でんさいは、一般社団法人全国銀行協会(全銀協)によって設立された株式会社全銀電子債権ネットワーク、通称「でんさいネット」が提供しています。
でんさいネットが提供する電子記録債権「でんさい」の取扱いが始まったのは、2013年2月のことです。
でんさいネットには、全銀協に所属している銀行のほか、信用金庫や信用組合、農協などの金融機関が加入しているため、全国で利用することができます。
ファクタリングとは?
ファクタリングとは、ファクタリング業者に売掛債権を譲渡することによって、資金調達することです。
ファクタリングの利用者のほとんどが中小企業であり、資金繰りが悪化したときなど資金調達が必要な際に利用されるのがファクタリングです。
中小企業がファクタリングをよく利用するのは、銀行融資よりも資金調達がしやすいからです。
銀行融資は審査が厳しく、融資されるまでに1週間から1か月程度はかかるのに対し、ファクタリングの審査は比較的易しく、最短即日から数日で資金調達が可能なのです。
銀行融資の審査では申請者の信用情報が審査されるため、滞納などにより信用情報に傷があるときは、融資されないことがあります。
一方、ファクタリング審査の対象はファクタリング利用者ではなく売掛先であるため、売掛先の支払能力に問題がなければ、すぐに入金されます。
ファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングがありますが、2社間ファクタリングのほうが圧倒的に多く利用されています。
銀行が提供しているファクタリングは、ほとんどが3社間ファクタリングです。
でんさいのメリット
でんさいには、次のようなメリットがあります。
- コストが削減できる
- リスクが低減される
- 資金繰りが楽になる
- 事務の負担が軽減される
- その他
でんさいのそれぞれのメリットを解説します。
①コストが削減できる
手形や売掛債権などに代わる決済手段として電子化されたでんさいを利用すると、手形で発行していた領収書が不要になるため、コストが削減できます。
というのは、領収書に貼っていた印紙代や取引先への郵送料などが不要になるからです。
- 領収書を発行する必要がない
- 領収書に貼る印紙代が不要なため、印紙税がかからない
- 取引先への領収書が必要ないため、郵送料も不要
②リスクが低減される
でんさいを利用することで、次のようなリスクが低減されます。
- 債権の紛失・盗難リスク
- 領収書の誤送付及び金額を間違うリスク
- 災害時に受け取れないリスク
- 債権の取立てを忘れるリスク
これらのリスクが発生すると、かなりの損失になるおそれがあるため、でんさいを利用するメリットは大きいです。
③資金繰りが楽になる
手形には分割できないというデメリットがありましたが、でんさいは分割可能です。
そのため、でんさいには分割した上で割引や譲渡ができるというメリットがあります。
また、手形を資金化できるのは支払日の翌日以降でしたが、でんさいは支払日に自動入金されることから、支払日当日に資金化できます。
そのため、これまで多くの中小企業にとって苦しかった入金日までの資金繰りが楽になるのです。
一方、でんさいは手形と同じく裏書譲渡が可能です。
裏書譲渡とは、裏書きすることで手形を期日前に譲渡することです。
- 債権の分割が可能
- 支払日に自動入金される
- 手形と同じく裏書譲渡ができる
④事務の負担が軽減される
でんさいを利用する大きなメリットとして、事務の負担が軽減されることが挙げられます。
というのは、でんさいを利用することによって、手形にかかる手続きが大幅に削減できるからです。
例えば、手形の発行、押印、印紙の貼付け、振込み、発送などの手続きが削減されるほか、取引先への取立ても不要になります。
一方、でんさいを利用する場合、オンライン上で支払情報を入力するだけで済みます。
- 支払にかかる事務負担が減る
- 支払手段をまとめることが可能
- 取引先への取立てが不要
⑤その他
でんさいのその他のメリットには、次のようなものがあります。
- 個人事業主も利用可能
- 二重譲渡のリスクが低い
でんさいは、個人事業主でも利用可能です。
ただし、支払能力があるかどうかの審査があります。
また、でんさいを利用する場合、ファクタリングよりも二重譲渡になるリスクが低くなります。
二重譲渡とは、あるものを複数人に譲渡することを言います。
二重譲渡には、複数の譲受人の中で誰が優先されるかという問題が生じるおそれがあります。
そのため、引渡しや登記といった対抗要件という民法上の制度があります。
でんさいのデメリット
でんさいには多くのメリットがありますが、次のようなデメリットもあります。
- 知名度が低いため、普及していない
- 利用するには、申込みが必要で審査がある
- 取引先もでんさいの利用者でなければならない
- 会計方針(会計処理の原則及び手続)の変更を伴う
- 中小企業にはメリットが小さい
- 手数料がかかる
- 情報セキュリティリスクがある
- ファクタリングにおける償還請求権がある
でんさいのデメリットをそれぞれ解説します。
①知名度が低いため、普及していない
でんさいの最も大きいデメリットは、でんさいの知名度が低いため、普及していないという現実です。
2020年12月時点におけるでんさいの利用者登録数は、約45万人にとどまっています。
さらに2020年の「手形交換高」が全体の約86%を占めているのに対し、「でんさい額(発生記録請求額)」は約14%にとどまっています。
参考:「手形交換高とでんさい額(発生記録請求額)推移」東京商工リサーチ調べ
このようにでんさいの知名度が低く普及していないのは、中小企業の経営者の多くがITリテラシーが低い高齢者であることも影響しています。
他にもでんさいが普及していない原因はありますが、後ほど解説します。
②利用するには、申込みが必要で審査がある
でんさいを利用するには、銀行などの金融機関への申込みが必要であり、審査があります。
審査の基準は公開されていませんが、融資同様の審査が行われると言われています。
そのため、中小企業にとってでんさいの利用はハードルが高いのです。
でんさいが普及していない理由のひとつではないでしょうか。
③取引先もでんさいの利用者でなければならない
でんさいを利用するには、取引先もでんさいの利用者である必要があります。
でんさいが普及していない現状において、この条件は多くの中小企業の経営者がでんさいの利用を躊躇する理由のひとつです。
例えば、自社がでんさいを利用していて、取引先がでんさいを利用していない場合、取引先にでんさいの申込みを依頼する必要があります。
しかし、取引先がでんさいを利用するかどうかの最終的な判断は、取引先がするため、なかなか難しいのが現実です。
④会計方針(会計処理の原則及び手続)の変更を伴う
でんさいを利用するには、会社の会計方針(会計処理の原則及び手続)を変更する必要があります。
つまり、手形からでんさいに会計方針を変更することを意味します。
「手形交換高」が減少傾向にあるとはいえ、2020年時点ででんさいより手形の利用のほうが多い現状において、手形からでんさいに変更するという決断はなかなか難しいものがあります。
⑤中小企業にはメリットが小さい
でんさいは、中小企業にはメリットが小さいというデメリットがあります。
でんさいにはコスト削減や事務の負担軽減などのメリットがある一方で、中小企業のように小規模な場合、メリットが小さいというデメリットがあるのです。
そのため、中小企業の多くはでんさいを利用していないのが現状です。
⑥手数料がかかる
でんさいを利用する際には、手数料がかかります。
手形を発行する際にも、ファクタリングを利用する際にも手数料がかかります。
そのため、でんさいの利用を検討する際には、手形やファクタリングなどの手数料と比較することが重要です。
また、でんさいを取り扱う金融機関によっても手数料が違いますので、比較検討することをおすすめします。
⑦情報セキュリティリスクがある
でんさいのメリットとして、債権の紛失・盗難などのリスクが低減されることを挙げました。
しかし、でんさいにも情報セキュリティリスクがあることを忘れてはいけません。
そのため、セキュリティ対策を実施する必要があります。
⑧ファクタリングにおける償還請求権がある
ファクタリングでは、原則としてファクタリング利用者に対する償還請求権はありません。
償還請求権とは、ファクタリング業者に売掛債権を譲渡した場合、売掛先の倒産などにより売掛金の回収が不可能となったときに、ファクタリング業者が売掛債権の譲渡人(ファクタリング利用者)に対して償還を請求する権利のことです。
でんさい割引を利用する場合、債務者から売掛金を回収できなかったときは、債権者であるでんさい利用者に支払う責任があります。
ファクタリングのメリット
ファクタリングには、次のようなメリットがあります。
- 売掛債権さえあれば利用可能
- 最短即日で資金調達できる
- 債権譲渡であり融資ではない
- 審査対象は売掛先
- 担保や保証人は必要ない
- 償還請求されるおそれがない
- 貸借対照表の負債には計上されない
- 2社間ファクタリングは売掛先に債権譲渡したことを知られない
これらのメリットについて、それぞれ解説します。
①売掛債権さえあれば利用可能
ファクタリングのメリットとして、売掛債権さえあれば利用可能であることが挙げられます。
なぜ、これがメリットかというと、でんさいを利用する場合は「でんさいネット」に加盟する必要があるからです。
さらに、でんさいネットに加盟していたとしても、取引先が加盟していなければ、取引ができません。
そのため、売掛債権さえあればファクタリングを利用できるというのは、メリットになるのです。
②最短即日で資金調達可能
最短即日で資金調達できることも、ファクタリングのメリットになります。
銀行融資の場合、慎重に審査するため、1週間から1か月程度の期間がかかるからです。
③債権譲渡であり融資ではない
ファクタリングは債権譲渡契約であり、融資(金銭消費貸借契約)ではないこともメリットになります。
というのは、銀行融資が信用情報に影響があるのに対し、ファクタリングは債権譲渡であるため、信用情報に傷が付くことがないからです。
④審査対象は売掛先
ファクタリングの場合、主な審査対象は売掛先になります。
つまり、ファクタリング利用者ではなく、売掛先の支払能力などが審査されるのです。
そのため、たとえファクタリング利用者の業績が悪くても、売掛先の業績が良ければ資金調達できるのです。
⑤担保や保証人は必要ない
ファクタリングでは、担保や保証人は必要ありません。
ファクタリングは融資ではなく、債権譲渡だからです。
一方、でんさい割引をする際は、譲渡人であるでんさい利用者の保証が必要になります。
⑥償還請求されるおそれがない
ファクタリングの場合、償還請求されるおそれはほとんどありません。
というのは、売掛金が回収不能になった場合、ファクタリング業者が責任を負うからです。
つまり、ファクタリング業者にはファクタリング利用者に対して、償還請求権がないのです。
⑦貸借対照表の負債には計上されない
ファクタリングは債権譲渡であって負債ではないことから、貸借対照表の負債には計上されません。
しかし、負債には計上されませんが、売掛債権を譲渡するため、資産が減少します。
⑧2社間ファクタリングは売掛先に債権譲渡したことを知られない
2社間ファクタリングは、売掛先に債権譲渡(ファクタリング)したことを知られないことが大きなメリットになります。
というのは、売掛先に債権譲渡したことを知られてしまった場合、ファクタリング利用者の資金繰りが悪化していると思われる可能性があるからです。
一方、3社間ファクタリングは、売掛先を契約当事者に加えることから、債権譲渡したことを知られてしまいます。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングには、次のようなデメリットがあります。
- 銀行融資より手数料が高い
- 売掛先の業績により審査に落ちる可能性がある
- でんさいと比べ、手続きに手間がかかる
- 取引先に債権譲渡したことが知られる場合がある
- 契約上債権譲渡が禁止された売掛債権は利用できない
- ファクタリング業者の中には悪徳業者がいるおそれがある
それぞれのデメリットについて、解説します。
①銀行融資より手数料が高い
ファクタリングの手数料と銀行融資の利子を単純に比べることはできませんが、ファクタリングの手数料のほうが銀行融資の利子よりも高くなっています。
でんさい割引にも手数料がかかりますが、金融機関によって違っています。
②売掛先の業績により審査に落ちる可能性がある
ファクタリング審査における主な審査対象は売掛先になりますが、売掛先の業績が悪かった場合、審査に落ちる可能性があります。
そのため、ファクタリングを利用する際は、事前に売掛先の業績を調べておいたほうがいいです。
③でんさいと比べ、手続きに手間がかかる
ファクタリングの場合、2社間ファクタリングよりも3社間ファクタリングのほうが手続きに手間がかかります。
契約当事者に売掛先が加わった分だけ、手続きが多くなるからです。
一方、でんさいの場合でんさいネットに加入していれば、すぐに手続きは終わります。
④取引先に債権譲渡したことが知られる場合がある
2社間ファクタリングでは、取引先に債権譲渡したことを知られることはありませんが、3社間ファクタリングの場合、知られてしまいます。
そのため、取引先に資金繰りが悪化していると思われる可能性があります。
⑤契約上債権譲渡が禁止された売掛債権は利用できない
契約上、債権譲渡が禁止された売掛債権は利用できないので、注意が必要です。
もし、債権譲渡が禁止された売掛債権を譲渡した場合、契約違反になるからです。
ただし、債権譲渡が禁止されていても、法律上は債権譲渡は有効になります。
⑥ファクタリング業者の中には悪徳業者がいるおそれがある
ファクタリング業者の中には、ヤミ金融業者などの悪徳業者がいるおそれがあるため注意が必要です。
債権譲渡契約ではなく金銭消費貸借契約を提示された場合は、ファクタリングではなく融資ですので、悪徳業者のおそれがあります。
また、手数料が高すぎる場合も悪徳業者である可能性があります。
でんさいとファクタリングの共通点
でんさいとファクタリングのメリット・デメリットを解説してきましたが、でんさいとファクタリングには共通点があります。
そこで、ここではでんさいとファクタリングの共通点について解説します。
売掛債権を譲渡することで、期日前に資金調達することができる
でんさいには「でんさい割引」という取引があります。
「でんさい割引」とは、でんさいを銀行などの金融機関に譲渡することにより、支払期日の前に資金調達することです。
「でんさい割引」は、ファクタリングとほぼ同じ資金調達方法のため、でんさいとファクタリングの共通点になります。
債権譲渡の方法がシステムにより確立されている
でんさいは「でんさいネット」、ファクタリングはファクタリング業者を通して、売掛債権を譲渡することで資金調達することができます。
このようにでんさいもファクタリングも、債権譲渡方法が確立されている点が共通点になります。
でんさいとファクタリングの違い
でんさいとファクタリングの共通点を解説しましたが、違いも存在します。
そこでここでは、でんさいとファクタリングの違いを解説します。
ネットワークの違い
でんさいは「でんさいネット」に加盟して、でんさい割引などの取引をすることで資金調達ができます。
ファクタリングはファクタリング業者と契約して、債権譲渡をすることで資金調達ができます。
でんさいとファクタリングには、債権譲渡の方法がシステム化されているという共通点があります。
一方で、「でんさいネット」とファクタリング業者というネットワークの違いがあります。
回収不能となった売掛金を支払う義務があるか
売掛先から売掛金を回収できなくなった場合、債権の譲渡人に売掛金を支払う義務はあるのでしょうか。
でんさいの場合、債権の譲渡人に売掛金を支払う義務があります。
一方、ファクタリングの場合、債権の譲渡人(ファクタリング利用者)に売掛金を支払う義務はありません。
というのは、ファクタリング業者に回収する義務があるため、譲渡人に対する償還請求権はないからです。
まとめ
この記事では、でんさいとファクタリングについて違いや共通点を解説するとともに、メリット・デメリットを解説しました。
でんさい(電子記録債権)には、コスト削減や事務の負担軽減などのメリットがありますが、知名度が低いことからあまり普及していないというのが現実です。
一方、ファクタリングは最短即日で資金調達ができるほか、負債ではないなどのメリットがあるため、中小企業の利用が徐々に広がっています。
そのため、近年注目を浴びています。
ただし、ファクタリング業者の中には悪徳業者がいるおそれがあるなどのデメリットがあることから、利用する際は注意が必要です。
でんさいとファクタリングには、債権譲渡により資金調達ができるという共通点がある一方で、ネットワークが違うなどの違いがあります。
でんさいよりもファクタリングのほうが普及していますが、でんさいが普及するためのハードルが高いため、普及が進んでいないのが現状です。