ファクタリングと債権譲渡の違いをご存じでしょうか。
ファクタリングは債権譲渡の1つですから、「それほど違いはないのでは」と思ってしまうのではないでしょうか。
また、ファクタリングに債権譲渡登記が必要かどうかも重要な問題です。
そこで、この記事ではファクタリングと債権譲渡の違いを解説するとともに、ファクタリングに債権譲渡登記は必要なのかを徹底解説します。
債権譲渡とは
債権譲渡とは、文字どおり債権を譲渡することです。
「債権」とは、債権者(債権の所有者)が特定の人(債務者)に一定の行為を要求する権利のことを言います。
ここでいう「債務者」とは、債権者から要求された行為をする義務を負う人のことです。
「債権」の例として最もよく使われるのは、「金銭の支払い」です。
この場合、「債権」は「金銭を請求する権利」を意味し、「債権者」「債務者」の意味は次のようになります。
- 債権者:金銭を請求する権利がある人
- 債務者:金銭を支払う義務がある人
債権は原則として譲渡することができ、ファクタリングも債権譲渡の1つです。
ファクタリングの場合は、売掛債権をファクタリング業者に譲渡した対価として、買取金額から手数料を差し引いた金額がファクタリング利用者に支払われます。
その結果、ファクタリング利用者は、資金調達することができるのです。
ファクタリングと債権譲渡の違いは?
ファクタリングと債権譲渡には、どのような違いがあるのでしょうか。
ファクタリングと債権譲渡には、次の3つの点において違いがあります。
- 目的
- コスト
- 手続き
この点を踏まえ、ファクタリングと債権譲渡の違いを解説します。
ファクタリングと債権譲渡の違いを表にまとめると、次のようになります。
ファクタリング | 債権譲渡 | |
---|---|---|
目的 | 資金調達 | 債務の弁済 債権の回収 |
コスト | 有償・手数料 | ケースバイケース |
手続き | 申込み・審査 | 申込み・審査は必要なし |
ファクタリング
ファクタリングは、売掛債権をファクタリング業者に譲渡した対価として、買取金額から手数料を差し引いた金額がファクタリング利用者に支払われます。
ファクタリングの目的
ファクタリングの目的は、資金調達です。
資金調達といっても、迅速な資金調達で、銀行融資では間に合わない場合に利用されることが多くなっています。
ファクタリングのコスト
ファクタリングを利用するためには、手数料を支払う必要があります。
ファクタリングの手続き
ファクタリングの手続きは、次のとおりです。
① 事前相談
↓
② ファクタリング業者へ申込み
↓
③ 審査
↓
④ 契約の締結
↓
⑤ 振込・入金
ファクタリングをする場合には、ファクタリング業者への申込みや審査が必要になります。
債権譲渡
債権譲渡は、債権(「金銭を請求する権利」)を譲渡することであり、例として次のようなケースが考えられます。
- 債務の弁済としての債権譲渡
- 債権回収会社への債権譲渡
これらの例を参考に、債権譲渡の目的、コスト、手続きについて解説します。
債権譲渡の目的
債務の弁済としての債権譲渡とは、債務(借入金)の弁済として、金銭の代わりに債権を譲渡することです。
例えば、B社がA社に対して有する債務(借入金)を弁済できない場合に、金銭の代わりにB社が持っている債権を譲渡するケースがあります。
一方、債権回収会社への債権譲渡は、債権者が支払いを要求しても債務者が応じない場合に行われます。
つまり、債権譲渡された債権回収会社は、債権者の代わりに債権の回収を行うのです。
これら2つの債権譲渡の目的は、次のようになります。
- 金銭の代わりに債務を弁済するため
- 滞納などにより回収できない債権を回収するため
ファクタリングの目的が「資金調達」であるのに対し、債権譲渡の目的は「債務の弁済」「債権の回収」などとなります。
債権譲渡のコスト
債権譲渡をする場合のコストは、ケースバイケースです。
有償である場合もあれば、無償の場合もあります。
ファクタリングは売掛債権を売却するため、常に有償になるほか、手数料が必要になります。
この点が、債権譲渡とファクタリングの違いになります。
債権譲渡の手続き
債権譲渡の手続きはファクタリングと違い、ファクタリング業者への申込みや審査は必要ありません。
というのは、会社同士の契約は自由だからです。
ファクタリングに債権譲渡登記は必要?
ファクタリングに債権譲渡登記は、必ずしも必要ではありません。
というのは、ファクタリングを行う上で、債権譲渡登記は義務とはされていないからです。
しかし、ファクタリング業者にとって債権譲渡登記は大きなメリットになります。
債権譲渡登記とは
債権譲渡登記とは、債権を譲渡したことを登記することにより、第三者に対抗できるようになるという制度のことです。
「第三者に対抗できる」とは、債権の譲受人が自分の債権であることを主張できることを意味します。
ここでいう債権は、ファクタリングにおいて「売掛債権」のことであり、譲受人は「ファクタリング業者」のことです。
本来、債権譲渡において第三者への対抗要件を備えるには、確定日付ある証書を債務者に通知するか、債務者の承諾を得る必要があります。
一方で、債権譲渡登記をすれば、第三者への対抗要件を備えることができるのです。
ファクタリングの場合、2社間ファクタリングで必要
ファクタリングにおいて、債権譲渡登記が行われるのは、3社間ファクタリングではなく2社間ファクタリングです。
というのは、3社間ファクタリングでは、債務者である売掛先が契約当時者であるため、確定日付ある証書を債務者に通知、もしくは債務者の承諾を得ることが可能だからです。
一方、2社間ファクタリングでは債務者(売掛先)に対して、確定日付ある証書の通知もしくは債務者の承諾を得ることができないことから、債権譲渡登記をすることになります。
債権譲渡登記のメリット・デメリット
債権譲渡登記にはメリットだけでなく、デメリットもあります。
そこで、ここでは債権譲渡登記のメリット・デメリットを解説します。
債権譲渡登記のメリット
債権譲渡登記のメリットには、ファクタリング業者のメリットとファクタリング利用者のメリットがあります。
そのため、ここではファクタリング業者のメリットとファクタリング利用者のメリットに分けて、解説します。
ファクタリング業者のメリット
- 第三者への対抗要件を備えることができる
- 二重譲渡を防ぐことができる
ファクタリング利用者のメリット
- 手数料が安くなる
- ファクタリング審査に通りやすくなる
ファクタリング業者のメリット
債権譲渡登記のメリットのうち、ファクタリング業者の主なメリットは2つあります。
第三者への対抗要件を備えることができる
債権譲渡登記を行う直接的なメリットは、譲渡された売掛債権について、同じ主張をする第三者に対抗できるようになることです。
本来、売掛債権を譲渡された時点で、売掛債権の所有者は譲受人であるファクタリング業者になるのですが、同じ主張をする第三者が現れることがあります。
その際、債権譲渡登記をしているファクタリング業者のほうが、有利になります。
また、債権譲渡登記をすることで、ファクタリング利用者が他者に売掛債権を譲渡しているかどうかを確認できるというメリットもあります。
二重譲渡を防ぐことができる
二重譲渡とは、債権を複数の人に譲渡することを言います。
この場合、譲受人同士で権利を争うことになりますが、対抗要件を備えた譲受人のほうが有利になります。
債権譲渡登記は第三者への対抗要件になるため、二重譲渡を防ぐことができます。
債権譲渡登記以外の第三者への対抗要件には、次のようなものがあります。
- 確定日付ある証書を債務者に通知する
- 債務者の承諾を得る
ファクタリング利用者のメリット
債権譲渡登記のメリットのうち、ファクタリング利用者の主なメリットは2つあります。
手数料が安くなる
債権譲渡登記をすることによって、ファクタリング手数料は安くなります。
というのは、ファクタリング業者の未回収リスクが低減するからです。
ファクタリング審査に通りやすくなる
債権譲渡登記をすることによって、ファクタリング審査に通りやすくなるというメリットがあります。
というのは、債権譲渡登記をすることによって、ファクタリング業者の未回収リスクが軽減されるからです。
債権譲渡登記のデメリット
債権譲渡登記のデメリットは、ファクタリング利用者のデメリットのみになります。
ファクタリング利用者のデメリット
売掛先に債権譲渡したことを知られるおそれがある
債権譲渡登記をすると、法務局で必要な手続きをすれば、誰でも閲覧することができます。
そのため、売掛先も閲覧することができることから、売掛先に債権譲渡したことを知られるおそれがあります。
しかし、売掛先がファクタリング利用者の債権譲渡登記を確認する可能性はほとんどないため、デメリットではなくメリットと言ってもいいかもしれません。
登記費用がかかる
債権譲渡登記をする場合、ファクタリング利用者が費用を負担しなければなりません。
主な費用は、次のとおりです。
登録免許税 | 7,500円 |
司法書士報酬 | 数万~10万前後(事務所ごとに異なる) |
債権譲渡登記をするには、司法書士に依頼することになるため、大きな出費になります。
そのため、ファクタリング利用者にとってはデメリットになります。
債権譲渡登記のメリット・デメリットを解説しましたが、ファクタリング利用者にとってはデメリットのほうが大きいです。
そのため、債権譲渡登記なしのファクタリング業者を探すことをおすすめします。
債権譲渡禁止特約とは
債権譲渡禁止特約とは、文字どおり債権譲渡を禁止する規定のことです。
企業間の契約書などに規定されていることが多く、この規定がある場合、債権を譲渡したとしても無効とされていました。
そのため、ファクタリングにおいても、ファクタリング業者は債権譲渡禁止特約にかかる売掛債権の買取りを躊躇(ちゅうちょ)していたのです。
しかし、2017年に民法が改正され、2020年4月から施行されました。
民法の改正によって、債権譲渡禁止特約の規定があっても、債権譲渡は有効とされたのです。
そのため、債権譲渡禁止特約にかかる民法改正によって、ファクタリングは実施しやすくなっています。
まとめ
この記事では、ファクタリングと債権譲渡の違いを解説するとともに、ファクタリングに債権譲渡登記は必要なのかを徹底解説しました。
ファクタリングは、債権譲渡の1つです。
ファクタリングと債権譲渡の違いは、目的・コスト・手続きの3つの点にあります。
ファクタリング | 債権譲渡 | |
---|---|---|
目的 | 資金調達 | 債務の弁済 債権の回収 |
コスト | 有償・手数料 | ケースバイケース |
手続き | 申込み・審査 | 申込み・審査は必要なし |
債権譲渡登記は、ファクタリング業者にとって大きなメリットがありますが、ファクタリング利用者にとってはデメリットが大きいです。
そのため、債権譲渡登記なしのファクタリング業者を探すことをおすすめします。
2017年に債権譲渡禁止特約にかかる民法が改正され、2020年4月に施行されたことによって債権譲渡禁止特約の規定があっても、債権譲渡は有効とされました。
その結果、ファクタリングは実施しやすくなっています。
この記事がファクタリングを検討する際の参考になれば幸いです。