中小企業や個人事業主が売掛債権を活用して資金調達をするファクタリング。資金を得ることができることから融資に似たものと考えがちですが、債権の売買契約にあたるため、借入ではありません。そのためファクタリングは貸金業でなくとも営むことが可能です。
ただし、貸金業とみなされない形でファクタリングを実行するためには条件があります。なかには条件を守らずに、貸金業登録なしに貸金業にあたる取引を持ちかける違法業者も存在するので注意しましょう。この記事ではファクタリングと貸金業の違いを明確にしたうえで、ファクタリングと貸金について、それぞれに適した企業の特徴を紹介します。
ファクタリングと貸金業の違いとは?
ファクタリングは、売掛債権を譲渡して迅速に資金調達をおこなう方法で、貸金業とは融資や借金にあたるもの。まずはそれぞれの定義を明確にしておきましょう。
ファクタリングは債権の売買契約
ファクタリングとは、保有している請求書などの売掛債権を、ファクタリング会社に売却することで、債権の額面から手数料を差し引いた金額を得る手法です。
ファクタリングは融資や借入ではなく、民法においては第555条にある売買契約の一種です。
民法第555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
金融庁は、ファクタリングが売買契約の一種であるとの立場を金融庁Webサイトの「(4) 貸金等に関する相談事例等及びアドバイス等」において明確にしています。(参考:https://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/advice04.html)以上のようにファクタリングは基本的なスキームにおいては「売買」の一種であり、貸金業にはあたらない点をおさえておきましょう。
貸金業とは融資のように資金を貸し付ける業務
融資や借金と一般に呼ばれるものは貸金業となります。貸金業の基本的なスキームは所定の金額を利用者に貸し付けて、あらかじめ決められたスケジュールに沿って、利息と共に返済していくものです。
銀行や信金、労働金庫といった系統金融機関以外が貸金業を営む場合には「貸金業登録」が必要に。消費者金融や信販会社などがこの登録を受けています。なお、銀行や系統金融機関は銀行法やそれぞれの法制度の下、規制を受けているので、貸金業をビジネスの一部とする金融機関はいずれかの金融規制の下に運営されています。
貸金業に当たらないファクタリングの条件
ファクタリングを貸金業に当たらない形で運営するためには、次に紹介するような条件があります。一つでも条件に当てはまらないものがあれば、その契約は貸金業にあたる可能性が高くなります。もし貸金業登録がない、もしくは銀行や系統金融機関として業務をおこなっていない場合は、その業者は違法となります。違法業者と誤って契約してトラブルに巻き込まれないように注意してください。
償還請求権がない(ノンリコース)
償還請求権をファクタリングに付与すると、売買契約ではなく、売掛債権を担保とした融資と同等であるとみなされます。
償還請求権とは、取引先の倒産などにより売掛債権から現金回収ができなくなったときに、代わりに利用者に債権額面を請求できる権利のこと。これがあると利用者は取引先が倒産したときに債務を肩代わりするリスクを負うことになります。
貸金業登録をしていない正当なファクタリング会社は、償還請求権なしでのファクタリングを受け付けています。
貸金業登録ありなら償還請求権ありのファクタリングも可能
貸金業登録ありの金融機関であれば、償還請求権ありのファクタリングも可能です。実際に償還請求権があるかわりに、手数料が低いファクタリングサービスを提供している金融機関もあります。正当な登録がされていて、規制が守られていれば、償還請求権があっても違法ではありません。
分割払いはしない
ファクタリングで利用者が資金を支払うとすれば、2社間ファクタリングで債務者から売掛債権に相当する代金を受け取ったときに限定されます。この時に限り代金を速やかにファクタリング会社に渡さなければなりません。3社間ファクタリングでは取引先が直接ファクタリング会社に代金を支払うため、利用者はファクタリング会社に現金を支払う局面はないはずです。
これをもし分割払いにしてしまうと、たちまち貸付の一種とみなされ、貸金業に該当する可能性が高くなります。
利息や後払いの手数料はつけない
ファクタリングは貸金ではないため、利息が発生することはありません。また、支払う手数料はファクタリング契約を締結するときに売掛債権の額面から差し引かれる部分に限定され、後払いで手数料が発生する仕組みにするのも不可です。これら利息や後払いの手数料が発生する取引も、貸金業とみなされます。
給与ファクタリングではない
金融庁は、ファクタリングと名がついていても、労働の対価として従業員が受け取る「給与」を「給与債権」とみなしたファクタリングは貸金業に含まれるとの見解を示しています。(参考:https://www.fsa.go.jp/user/factoring.html)
これは、仮に従業員の雇い主の企業が経営悪化などで給料を未払いにしたとしても、通常の債権のようにファクタリング会社が企業に資金回収を求めることが困難なことが背景になっています。なお、給与ファクタリングについては、正当な貸金業者が営んでいるケースは稀なので、特に違法業者の可能性が高いといえるでしょう。
ファクタリングと貸金業どちらの利用がおすすめ?
ファクタリングと貸金業は異なる特徴を持つ資金調達手段です。どちらが優れているというものではなく、自社の状況やニーズに合わせて適した手段を選択するとよいでしょう。
ここからはファクタリングと貸金業それぞれに適した企業のタイプを紹介します。
ファクタリングがおすすめな企業
次のような特徴やニーズを持つ企業は、ファクタリングの利用をおすすめします。
- 自社の経営状況が芳しくない
- バランスシートを圧迫させたくない
- すぐに現金が必要
ファクタリングは売掛債権の債務者である取引先が健全であれば、ファクタリング会社にとって資金回収リスクが低いため、赤字など経営状況がよくない企業でも資金調達できる可能性があります。
ファクタリングは借金ではないため、バランスシートの負債を増やす心配がありません。また、資産に当たる売掛債権が譲渡されることで、バランスシートの規模が縮小する「オフバランス」につながります。
最後に、ファクタリングは最速で即日での現金化が可能。少しでも早く現金が必要なら、ファクタリングがおすすめです。
貸金業の利用がおすすめな企業
次の特徴を持つ企業は貸金業、すなわち融資を利用するのが適しています。
- 経営状況や財務状況に余力がある
- 資金調達のコストを抑えたい
- 金融機関とのリレーション構築も重視したい
企業に返済余力があるうちは、借入での資金調達を優先して、売掛債権はいざという時の調達手段として温存しておくのがよいでしょう。また、最終的にはそれぞれの契約内容によるものの、ファクタリングの手数料より融資による金利支払いの方が安い傾向にあるため、資金調達コストを抑えたい企業にも貸金業の利用が適しています。
また、金融機関は健全な返済実績が蓄積されると評価が向上し、より借入をスムーズに進められるようになります。将来の資金調達先の多様化のために金融機関とのリレーションを強化したいなら、ターゲットの金融機関の融資を申し込むのがよいでしょう。
ファクタリングと貸金業の違いを理解して資金調達方法を検討しよう
資金の貸付を行う金融機関は貸金業法もしくは各金融機関それぞれの法規制を受けています。ファクタリングを専門でおこなう会社の多くは、この貸金業登録を受けておらず、貸金業に当たらないスキームでサービスを提供しています。
ただし、償還請求権がある、利息を求められるような取引は、ファクタリングであっても貸金業にあたります。中には登録なしでこのようなファクタリングをおこなう違法業者もあるので注意しましょう。
ファクタリングと貸金業の違いや特性を捉えたうえで、自社にとって適した資金調達手法を選択しましょう。